2017年の海外株主総会 ~ESGの動き~

コーポレートガバナンス

背広・ネクタイで重厚な重役室に陣取って、経営トップとして威厳を張るオールドエコノミーは、ジーンズとスニーカーでITテクノロジーを駆使して経営結果を4半期ごとに増やす新経営スタイルが躍進しつつある。こういう流れの中で行われた2017年の欧米の株主総会では、環境への関心の強さ、古い経営トップの交代、様々なアクティビストの動きなどは、日本で見られない動きがみられた。

1)環境問題

大統領の考えに対立する環境意識

2017年の米総会シーズの最中の5月下旬に、気候変動に係わる「パリ協定」をトランプ大統領は離脱を表明。エクソンモービルの株主総会は、その直後に環境団体の激しいデモ行進に迎えられて開催された。昨年同様に、同社に対して、「環境規制策が今後の事業展開に如何なる影響を及ぼすかを毎年開示せよ」という株主側から提案があったが、会社側は、この提案には反対してきた。その理由は環境規制実施に伴なう技術的な対応への不確定な要因が多く、また関連コストの算出が困難ためであった。カルパースをはじめとした公的年金も受託者責任から株主共同提案者として名を連ねた。2016年は38.2%が賛成したが、2017年は62.3%と大幅に上昇、環境問題に関する株主意識が年々強くなっていることを示した。

2)社会的問題

銀行を蝕む恥の連続:内部通報制度の無知を謝罪

英大手金融機関バークレイは2012年にLIBOR取引で不正取引を継続したことを認めトップが辞任。以来5年間にわたり同行は社内の規律是正を図って3人目のトップとしてスタイレイ氏が米投資銀行から就任したが、内部通報システムの有用性を知らないままCEOになった。問題は2016年6月に起きた。内部通告で同CEOが任命した金融市場取引の責任者は、「過去に問題のあった人物」であるとの情報が寄せられた。任命責任を問われた同CEOはその告発者の名前の特定を求める「犯人捜し」をして、「社内規則違反」であると役員会に別途告発された。伝統ある英大手銀行のトップがコンプライアンス無視で起訴されたのは初めてで、大手行トップの社会問題の意識に対する意識の低さが問われた。

3)ガバナンス問題

◆ 高額報酬への反発の動き

金融危機以降、海外金融機関の高額報酬に対する株主側の反対の動きは2017年の株主総会でも変わらない。欧米の役員報酬の水準は国よって異なるが、米国で最も高額な水準は米JPモーガンCEOの28百万ドルであっても、EUでは仏BNPのトップの5百万ドルである。金融危機以降、米国では役員報酬に対して総会で賛否を図るシステムになったが、その流れは英国やスイスでも見られる。いずれの国でも総会での決議に法的拘束力はないが、否決されればその企業の報酬委員会は面目を失い、次回には役員報酬の見直しを余儀なくされてきた。

◆ 機関投資家に対する株主の議決行使のチェック

世界最大の運用会社ブラックロックでは、富裕大株主から、「役員報酬の議案」を厳しくチェックするよう株主提案があった。同株主の説明では、2016年のS&P500社に対する大手運用会社200社の役員報酬の議案に対する賛成率は平均89%であったが、ブラックロックの賛成比率は99%と大変甘かったという

米投信大手バンガード社は役員の高額報酬に100社のうちは9社に反対投票したと公表したが、米大手年金基金のTIAAは、英投資先企業の役員報酬には100%賛成票を投じと非難した。また米大手運用会社のノーザン・トラストも全投資先企業の役員報酬案の98%に賛成したとして社会的責任が「甘い」と指摘された。

◆ 株主提案のコスト負担の攻防

2017年は会社側が株主あてに発送する招集通知書の中に、株主側が主張する株主提案を記載・同封するコスト負担の攻防が激しくなった。この動きはプロキシー・アクセスと言われ、公的年金が積極的に働きかけてきた。特にニューク市の公的年金の強い要請で、昨年12月からテキサス・インスルメントやコンソリデイテット・エジソン等の18の大企業が応諾。但し、経営経験や知見に乏しい人物が立候補し、社外取締役に選任されては迷惑となるので、「保有株式が3%以上で最低3年以上保有」の株主に限るとの条件を付けている会社が多い。